空には届かない
 見上げた天窓には切り取った青空。どんなに目を凝らしても春風の行方は見えない。今
日は快晴だ。旅立ちには相応しい。見送りにも、相応しい。
 仰向けのまま手探って時計を確かめる。正午少し前。屋根裏部屋には柔らかい日差しが
漂っている。もう、飛行機は発っただろうか。
 本当はこんなところから眺めるよりも、空港で、抱きしめてやったり、別れのキスをし
たりしてあげたかった。愛してるって、言ってしまいたかった。でも出来ない。人ってす
ごいと思う。本当の意味では愛してもいない人を前にして、あんなにも夢中なふりが出来
る。二人でいる間は、それが幸せなんだって自分自身すらごまかせる。人ってすごいと思
う。すごく、寂しがりなんだ。
 綺麗な別れ方を演出してしまったら、きっとずっとこれからも、自分をごまかしてしま
いそうだから。二人は愛し合ったまま別れた、なんて。だから、突然の終わりがいいの。
不完全な終わり方。だって、不完全な愛だった。夜中の電話で何を思った?本当は来てく
れるんじゃないかと期待した?私の不在が寂しかった?でも、それはみんな愛じゃないの
よ、本当は。私の抱えていたものも、あなたの抱えていたものも。
 誰も知らない隠れ家で、小さな機影を見送っている私を笑って。空から、今こそ本物の
愛が生れ落ちて来やしないかと、いまだにどこかで願っているのに。雲ひとつない空。春
風がずっと遠くへ押しやってしまったから。順調な空路に乗って、あなたは遠くへ行って
しまうわ。





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